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大阪家庭裁判所 昭和43年(家)3257号 審判

申立人 石坂春世(仮名)

未成年者 石坂登(仮名)

主文

未成年者の後見人に

本籍 大阪市東淀川区○○○町○丁目○○○番地

住所 本籍に同じ

石坂定一

を選任する。

理由

本件申立理由の要旨はつぎのとおり。

申立人は未成年者の伯母で現に同人を監護養育しているが、同人の母石坂初子はろう唖者として心身に障害があり親権を行使できないので、同人の後見人に母方祖父である石坂定一を選任する旨の審判を求める。

よつて審案するに、調査の結果によると、上記申立理由と同旨の実情のほか、未成年者は石坂初子の嫡出でない子であるところ、初子はろう唖者として知能低くかつ特殊教育を受けなかつたため発語不能で、その心身障害の程度は身体障害者福祉法別表第二、第三の各一にあたること(この点は医師仁瓶誠五作成の診断書による)が認められる。

さて民法第八三八条第一号に定める未成年者に対し親権を行う者がないときは、親権者の死亡・親権の喪失・辞任等により現に親権者がない場合はもとより、親権者が生存していても事実上親権を行うことができない事情にある場合をも含むと解すべきところ、親権者の心身に著しい障害があるため親権を行うことができない状況にある場合も、親権者の行方不明などの場合と同じく、これにあたると解するのが相当である。ところで、このように親権者の心身に障害があるため親権を行うことができない事情にあることを判断するには、必ず禁治産宣告等の手続を経なければならないとの見解がある。しかし、このように解すると、禁治産宣告等には、手続上申立権者の範囲・要鑑定などの制限があるほか、申立権者があつても近親者が禁治産宣告を望まぬことがあるため、この手続がとられないで放置されたり著しく遅延することなどがあつて、早急に後見人を選任することができず、未成年者の保護に欠ける事態を招くことになり、未成年者後見制度の趣旨にてらし適切でないし、また親権者が心身の障害のためにせよ行方不明のためにせよ、親権を行うことができない事情にあることには差異はないのであるから、親権者が心身の障害のため親権を行うことができない事情にあるかどうかは、関係法規に特段の定めのない限り必ずしも医師の鑑定や禁治産宣告等の手続を要せず、障害の程度が明白な場合には、行方不明のため親権を行うことができないときと同じく家庭裁判所の職権調査による自由な認定に委ねてよい(もつとも、障害の程度が不明な場合には、事の性質上、専門医師等の鑑定を必要とすることが多いであろう。なお昭和三一年一月二五日当家庭裁判所家事部決議、大阪家庭裁判所家事部決議録一二六頁参照)。

いまこれを本件についてみると、未成年者の母初子は、上記認定のような心身障害者であつて明らかに親権を行うことができない事情にあるものと認められるので、本件申立を相当と認め、この審判の効力発生(告知時)と同時に未成年者につき後見が開始するものとして、石坂定一を後見人に選任することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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